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パブリック・アクセス除細動器(PDA)への展望

 


  パブリック・アクセス除細動器(PDA)への展望

1.はじめに

 1992年のアメリカ心臓協会(AHA)のCPRガイドライン改定から、心臓突然死の救命率向上には現場での早期除細動の重要性が明記され、2000年改定ではさらに、自動対外式除細動器(AED:automated external defibrillator)を用いた一般市民が行うパブリック・アクセス除細動(PAD:public access defibrillation)の使用の正当性が述べられている。今回、世界ですでに市販されているパブリック・アクセスAEDを紹介する

2.パブリック・アクセス除細動器の歴史

 パブリック・アクセス除細動の概念は、1990年にLeonard A.Cobb教授を中心としたAHAのCPR将来検討委員会に始まり、この時に携帯型自動除細動器を企業が開発することを要望として出された。企業がこれに答えて1993年に自動除細動器を開発したことから現実のものとなった。翌1994年に「心臓突然死を防ぐ新たな戦略としてのパブリック・アクセス除細動」に関するAHA検討委員会がスタートした。 

 2000年8月に発表されたAHAを中心とした国際蘇生法連絡委員会(ILCOR)の一次救命処置検討委員会が出した勧告声明の中で早期除細動の施行資格者の拡大が述べられている。従来の救急隊員、消防隊員から、病院内医療従事者(看護師、呼吸療法士など)、警察官、警備人、ライフガード、航空機客室乗務員、鉄道職員、大規模施設管理者など、市民の命を守る責任のある立場の人々が、CPR(一次救命処置)に加えて、AEDの取り扱いの講習を合わせて行う勧告を表明している。

3.世界で汎用されているパブリック・アクセス除細動器の比較


 現在、世界で市販されているパブリック・アクセス用AEDは、FirstSave(サバイリンク社製)、Heartstart FR2(レールダル社製)、LifePak500(メドトロニック社製)の3機種がある。

 これらの共通の特徴として、バッテリー装着した総重量は2Kgから3Kg前後で、サイズは大きな弁当箱程度で小型軽量となっている。除細動機能としては、放電方式として単相性放電に加え、2相性放電を採用している。2相性放電による除細動は、単相性に比べて少ないエネルギー量で除細動が可能で、高エネルギー通電による心筋障害が少なく、除細動後早期に循環動態が回復する。残念ながら、日本においては単相性方式のAEDしか認可されておらず、現在、市販されているのはFirstSaveとLifePak500で、単相性放電方式として認可されている。2相性放電方式のみのHeartstart FR2は現在、申請中である。

 バッテリーは5年寿命のリチウム電池で、使い捨て方式になっている。放電回数は、100回から250回と様々であるが、パブリック・アクセス使用では心臓突然死の発生頻度を考慮すれば、従来の充電式よりもメンテ・フリーの方が救急隊員以外の一般市民が使用するのに適している。

 表示に関しては、Heartstartのみが心電図モニターがあり、心臓突然死患者の心室細動の確認のみならず救急患者の一般的心電図モニターして使用も出来る。

 操作性に関しては、操作上のミスをなくすために(zero-risk device)、操作ボタンを少なくする工夫がなされており、FirstSaveでは蓋を開ければ、電源スイッチが入り、心電図の解析がスタートし、利用者は除細動ボタンを押すだけのワンボタン式になっているのが特徴である。

4.AED適応の実際例の紹介

1)カジノにおける警備員によるパブリック・アクセス除細動の施行


 アメリカの32ヶ所のカジノにおいて、警備員1350名に5時間から6時間のAED使用訓練を行い、1997年3月1日からAED救命体制がスタートした。以後32ヶ月間にカジノ内で、148例の心臓突然死例が発生し、この内,105例(71%)が現場心電図上で心室細動であった。4例(4%)は現場死亡、35例(33%)は救急部にて死亡、10例(10%)は病院死亡で、56例(53%)が生存退院した。全症例148例中では38%が生存退院した。

 カジノは警備上にテレビモニターが各所に設置されており、救急時の対応時間がモニターにて正確に把握できているのが特徴である。突然死の発生からAEDパッチ装着までの時間が3.5±2.9分、除細動までの時間が4.4±2.9分で、パラメディックの到着までの時間は9.8±4.3分であった。

 心臓突然死発生から3分以内に除細動が行われた例では74%の生存退院が得られたに対して、3分以上の例では49%の成績であった。

2)航空機内および空港ターミナルにおけるパブリック・アクセス除細動

 American Airlines社は、AEDを飛行機内に装備するために、全搭乗員24,000人に4時間の講義と実技、1年ごとの1時間30分のリフレッシュコースと試験を行う教育プログラムを行い、1997年3月から飛行機内AED体制をスタートした。

 1997年6月1日から1999年7月15日までに、200人(飛行機内191人、ターミナル内9人)に対してAED装着を行った。内訳は99名が意識消失、62名が胸痛、19名が呼吸困難などである。ACDを単に心室細動に対する除細動目的だけでなく、患者の心電図モニターとしても使用したのが特徴である。

 200例中、15名の心室細動例に対して除細動を行い、6名(40%)が神経学的障害なしに無事退院した。

 American Airlinesに続いて、現在までに航空機内でAEDを装備している航空会社は、Alaska Airlines、Aloha Airlines、American Trans Air、Ansett、British Airway、Comair Airlnes、Delta Airlines、Delta Air Cargo, Finnair、Hawaiian Airlines、Lufthansa Airlines、Monarch Airlines、New ealand Ailines、Quantas、Singapore Airlines、Quantas、Singapore Airlines、Swiss Air、United Airlines,United Arab Emirates Airlines,US Air、Varig、Airway、Qantas AirwayVirgin, Zimbabwe Airの20社がAEDの装備を行っている。日本の航空機会社の今後の動向が注目される。

5.終わりに

 今後、人が集まるあらゆる場所にAEDが配備される可能性がある。また、植込み型除細動器の経験から、心臓突然死患者に対して意識がなければ、CPRを行わずに即座に除細動を行う新しい救命法が行われる可能性も考えられる。

 ワシントン大学循環器科のBardy教授は、シアトル地域に住む小学6年生19人を対象に行った実験では、僅か1分間の使用説明をしただけで、これら11歳の児童が訓練用マネキンに正しくAEDを安全に適用できることを示した。心停止例の75%以上は家庭で起こっていることを考えれば、AEDを煙探知機や消火器と同様に糧に常備すべきものと述べている。

 現在の日本の現状では、医師の指示のもとで救急救命士がAEDにより除細動を行うことになっているが、近い将来、日本においてもパブリック・アクセスAEDが導入されることを願っている。

 

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