新しい救急救命戦略:医師が携帯する自動体外式除細動器(AED)
1.はじめに 心臓突然死の原因は心筋虚血による心室細動の発生によるものとされている。 現場心電図が心室細動であれば、発症後4分以内にすぐ隣の人が心肺蘇生法(bystander CPR)を開始し、8分以内に早期除細動の実施することができれば約半数の人を救命できる疾患である。 アメリカにおいては、救急現場にてパラメディック(Paramedics)が現場心電図にて心室細動を診断し、医師に連絡して除細動を行っていたが、半自動除細動器(AED:automated external defibrillator)の開発に伴い、通常の救急隊員(EMT:Emergency Medical technician)が使用できるようになり、救急現場での早期除細動ができるチャンスが拡大した。1992年のアメリカ心臓協会(AHA)のCPRガイドライン改定から、心臓突然死の救命率向上には現場での早期除細動の重要性が明記され、2000年改定ではさらに、一般市民が行うパブリック・アクセス半自動除細動器(public access AED)の使用の有用性が述べられている。 日本においては、1993年に救急救命士制度がスタートし、救急救命士が心停止患者に行う特定行為の中にAEDによる現場除細動が導入され、医師の指示のもとで除細動ボタンを押すことができる。しかしながら、救急救命士が現場到着し、除細動を行うまでの時間がかかりすぎ、現場での除細動率、救命率が思うように向上しないのが現状である。 2000年度からは厚生労働省の「健康日本21」や文部科学省の「地域総合型スポーツクラブ」がスタートし、生活習慣病の一次予防に幼少期からの生涯健康スポーツの重要性が推奨されている。生活習慣病の内、高血圧、高脂血症、糖尿病に関しては日本医師会健康スポーツ医の運動処方箋による積極的な医学的指導が求められている。 最近、学校スポーツ時の死亡事故、県内のマラソン・ロードレース時の死亡事故が散見され、スポーツ管理者の危機管理責任が問われている。2002年6月に開催されるワールドサッカー神戸大会では、国際的な危機管理体制が求められている。また、2007年には兵庫国体が開催もされ、今後、産業医と同様に命の危機管理面における健康スポーツ医のかかわり方が大きな課題である。 県医師会健康スポーツ医学委員会では、日本では医師のみが使用できるパブリック・アクセスAEDを健康スポーツ時の危機管理の基本体制に据え、医師を中心としたスポーツ時の心臓突然死に対する新たな救命救急体制を提案するものである。 2.救急医療の意識革命:健康スポーツ医の危機管理対応のあり方 アメリカのカジノでの警備員によるAEDの使用実績で特筆すべきことは、目撃された心停止患者に対して心停止発症からAEDによる除細動施行までの時間が4.4±2.9分であり、パラメディックの到着時間(9.8±4.3分)よりも早かったことが救命率向上(59%の生存退院)につながっている。 各種スポーツイベントにおける競技参加者の危機管理体制を考えた時、迅速な救急処置がなされれば救命可能な心臓突然死をまず想定した体制をとることが必要である。この時、健康スポーツ医、医師でなければ出来ないものが救急現場におけるパブリック・アクセスAEDによる早期除細動である。目の前で倒れた人の意識がなければ、すぐさまAEDのパッチ電極を貼り付け、心電図解析ボタンを押し、AEDからの除細動ボタンの音声指示がでれば押すだけの簡単な操作である。極端な言い方をすれば、救命可能な心室細動のみにAEDは反応し、反応がなければその以外の原因によるものと鑑別診断ができる。AEDによる心室細動の自動解析精度の問題はなく、例え正常心電図の人にAEDが装着されても誤作動の可能性はないことは、アメリカン航空の使用実績でも確認されている。 ただ、現在の日本の医師法では医師のみ(救急救命士は医師の指示が必要)がAEDの除細動ボタンを押すことができることから、今後の心臓突然死の救命率向上には医師のAEDの使用拡大が当面の対策となる。スポーツイベントに出務する健康スポーツ医は常に小型軽量のAEDを携帯し、心室細動による心臓突然死に対応する危機管理意識をもつことが大切である。 3.終わりに 今後、人が集まるあらゆる場所にAEDが配備される可能性がある。また、植込み型除細動器の経験から、心臓突然死患者に対して意識がなければ、CPRを行わずに即座に除細動を行う新しい救命法が行われる可能性も考えられる。 現在の日本の現状では、医師の指示のもとで救急救命士がAEDにより除細動を行うことになっているが、当面の打開策として日本において医師のみが使用できるパブリック・アクセスAEDの活用が新しい救急医療の意識改革につながるものと思う。 |
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