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NHK放送「視点・論点」:冬に多い心臓突然死

 


  平成14年1月23日放送

 「あなたの目の前であなたの愛する人が倒れたなら、あなたは愛する人を救えますか」

  私は、過去15年にわたり心臓突然死に対する心肺蘇生法の普及啓発を行ってまいりました。兵庫県では1990年から5年計画で心肺蘇生法を県民運動として取り組み、講習会には延べ108万人の県民が参加いたしました。

 心臓突然死は、45歳以上の男性で、7割は家庭で起こります。発症後、4分以内に心肺蘇生法を行い、その原因である心室細動に対して8分以内に電気ショックを行えば救命できる病気です。今回、冬場に多いと言われている心臓突然死の原因と予防対策についてお話いたします。

 心臓突然死が起きる時期には特徴があります。1日のうちでは、午前中と夕方の2つの時間帯に多くみられ、「魔の時間帯」と言われております。

1週間のうちでは、日曜日から月曜日に、1ヵ月のうちでは第一週目に多く見られます。1年のうちでは冬場の12月と1月に多発する傾向が見られます。これは、日本だけでなく他の国においても同様の傾向が見られます。

 心臓突然死が起こる原因には、交感神経の亢進によるものと血液中の遊離脂肪酸の増加によるものとの、2つの原因が考えられます。

人間の身体には体内時計があることをご存知でしょうか。専門的には、サーカディアン・リズムと申します。体温、血圧、自律神経およびホルモンなどは、約24時間周期で変動しています。夜の睡眠中は、副交感神経が優位の状態にあり、朝が覚めて、動き始めると、交感神経が緊張状態になります。この状態では、血圧は上昇し、冠動脈がケイレンしやすくなっており、夜間の脱水状態に加え、朝方には血液が固まりやすい状態になっております。こうした状況の中、特に起床後1、2時間目に、急性心筋梗塞が起こりやすくなっています。

 最近、国会答弁でも取上げられた、心臓突然死、過労死の予備軍と言われている"死の四重奏"が話題になっています。"死の四重奏"とは、内臓脂肪による上半身肥満、血液中の中性脂肪の値が高い、糖尿病予備軍、高血圧の4つの状態を言います。この状態では、内臓の脂肪組織にある中性脂肪が分解されて、大量の遊離脂肪酸が血中に流れ出します。最近の研究では、血液中の遊離脂肪酸の濃度が高いほど心臓突然死が起こりやすいと言われています。1日の仕事を終えて、夕食にお酒と脂っこい食事は遊離脂肪酸の増加を来たし、また週初めや月初めは仕事の精神的ストレスが加わり、心臓突然死が起こりやすい状態になっています。冬場の12月、1月に多い理由は、寒さによる寒冷ストレスに加え、外国ではクリスマス、日本では正月にお酒と食べ過ぎによる肥満傾向になり、それに伴う遊離脂肪酸の増加が原因と考えられています。

さらに喫煙習慣は、交感神経を介して心臓を刺激し、血液を固まりやすくし、単独でも心筋梗塞、心臓突然死を起こす大きな原因となります。

 心臓突然死の予防には、ご飯と味噌汁のような炭水化物を中心とした朝食をゆっくり摂り、日頃から脂っこい食事は控えめにして、常に内臓脂肪を燃やすために歩行習慣を身につける必要があります。冬場の寒さには充分に防寒に心がけてください。また、夜間の脱水を防ぐためにも、寝る前の水分補給も大切です。

 心臓突然死の7割は家庭で起こっています。前に申しましたように、心臓突然死の救命には、4分以内に心肺蘇生法を行い、心室細動に対して8分以内に電気ショックを行う救急体制が求められます。そこでまず、家族はいざという時のために心肺蘇生法を知っておく必要があります。

そこで、一人で行う心肺蘇生法のやり方をお見せいたします。最も大切なことは、目の前で愛する人が倒れた時、すぐさま意識の有る無しの確認を行い、意識がなければ、迷わずすぐに119番に通報することです。日本では1992年度から救急救命士制度がスタートしたのも、心室細動に対して現場でできるだけ早期に電気ショックを行うためです。

 2000年8月には、米国心臓協会から心肺蘇生法の世界統一ガイドラインが発表されました。一般市民には、できるだけ早く救急車を呼び、救急車が到着するまでに、少なくとも心臓マッサージだけは行うように指導しています。この背景には、小型の半自動除細動器の開発があり、米国では心臓突然死の発症後8分以内に電気ショックを行うために、救急救命士だけでなく、訓練を受けた一般市民が直接、電気ショックを行うことができるようになりました。外国では30社以上の航空会社が飛行機内に半自動除細動器を搭載し、客室乗務員が除細動を行うことができます。日本でも、昨年の秋から国際線の機内に小型除細動器が搭載され、機内で心臓突然死が発生した緊急時に、医師が乗り合わせていない場合でも客室乗務員が使用することができるようになりました。米国のシカゴ空港内では、41箇所に半自動除細動器が消火器のように設置されており、空港内で心臓突然死が発生した場合には、1分30秒で現場に持参できる体制が整っております。

 今年の5月にはワールドカップが開催されます。日本では、フリーガン対策が問題になっていますが、世界から集まる観客の命を守るためには、各スタジアム内に最低40台の半自動除細動器を設置する危機管理体制が世界の常識と考えます。

 助けられる命を助ける。他人の命を守ることが自分の命も守られている。こうした「お互いの命を守る社会づくり」に皆様も参加されませんか。

 

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