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AED普及県民運動「お互いの命を守る社会づくり」の提案

 


  AED普及県民運動「お互いの命を守る社会づくり」の提案

 米国心臓協会(AHA)心肺蘇生法国際ガイドライン2000の基本理念は、「心室細動は、一般市民が救える唯一の心臓病である」との観点に立っている。AED(半自動除細動器)普及の第一歩は、公的機関、集客施設、学校などに設置し、当面は、その管理責任者を対象にAED講習会を開催することになるが、将来的には心肺蘇生法と同様に誰でもAEDを使用できなければならない。幸いに、医療技術の進歩によりAEDは、一般市民が使用できるレベルの簡便かつ安全な医療機器であり、たとえ、間違って心室細動以外の人に電極パドルを装着しても、AEDの心室細動自動認識装置が反応しない安全な機器である。

 米国シカゴのオヘア空港には, AEDが60-90秒以内に取りに行ける場所に41台設置されている。1999年6月1日から2001年5月31日までの2年間に、空港内で21例の心停止患者が発生し、18例(85%)が心室細動であった。この内、16例に対して グッド・サマリタン ( AEDの講習を受けていない旅行者、空港職員ら )がAEDによる除細動を施行し、AED訓練者が行ったのは2例のみであった。1年生存率10例(56%)の結果が報告されている。

 ここで注目してもらいたいのは、グッド・サマリタンの存在である。グッド・サマリタンは、「よきサマリア人の教え」と言われ、善意で行った行為に対しては罪にはならないという米国の慣習法であるが、むしろ米国民が人命救助を積極的に行う人間愛の精神基盤となっている。16年前に日本で心肺蘇生法の普及啓発を始めた時に作ったキャッチコピー「あなたは愛する人を救えますか」による日本人に対する問いかけは、「命の教育」が日本人の共通基盤になければ心肺蘇生法は普及しないと考えたからである。県民運動の主体として県教育委員会が普及に取り組んだ理由でもある。

 今後のAEDの普及啓発においても、心肺蘇生法の「意識の確認」が最も大切な啓発ポイントになる。極端に言えば、目の前で人が突然倒れ、意識がなければ、全員にAEDの電極パドルを傷病者の胸に貼り付け、AEDの音声指示に従えばよいのである。誰もがパニックに陥っている時に、AEDからの音声指示はパニックを沈めるだけでなく、適切な救命処置が行われることになる。もし、心室細動であれば、AEDから「通電が必要です」、「患者から離れてください。通電ボタンを押してください」の音声指示があり、除細動ボタンを押せばよいだけである。心室細動でなければ、AEDは「除細動の必要はありません」と音声で知らせる。この場合には、心室細動以外の原因で意識がないと判断し、救急車の到着を待つだけの時間的余裕が生まれるのである。

 AED普及県民運動は、「お互いの命を守る社会づくり」を目指した社会の「安全・安心」の基盤となる意識啓発の絶好の機会である。1990年から5年計画でスタートした心肺蘇生法県民運動「命を大切に、あなたも心肺蘇生法を」を通して、兵庫県民は「心肺蘇生法」という名前を知ったように、まず、AED普及県民運動にて「AED」という名前を知ることが第一歩となる。当面は、AED講習会を受講した一般市民が現場での除細動を行うことになるが、将来的にはすべての一般市民が心肺蘇生法を行うようにAEDにて除細動を行う社会常識が理想である。そのためには、米国のグッド・サマリタン精神に代わる社会理念の醸成が必要である。

 AED普及県民運動の戦略として、中学校、高等学校の保健体育の授業に心肺蘇生法教育にAEDの社会理念を組み入れ、積極的な「命の教育」が有効な手段となる。そのために、まず学校内にAEDを設置し、「生徒、教職員の命を守る学校づくり」からスタートすることが、将来のグッド・サマリタン精神醸成の布石となる。AED普及啓発は、法令にて単に施設内にAEDの設置義務が課せられることではなく、AEDを通して一般市民の「お互いの命を守る社会づくり」の啓発教育である。

 「心室細動は、一般市民が救える唯一の心臓病である」との共通認識の社会啓発運動が、AED普及県民運動の目標である。

 

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