「非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用のあり方検討会」
における私の主張
 


  平成15年11月18日 第一回「非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用のあり方検討会」での講演を終えて
                             
河村循環器病クリニック院長
                                       河村剛史

  今回、厚生労働省の「非医療従事者による自動体外式除細動(AED)の使用のあり方検討会」の第一回検討会の最初のヒアリング講演で発表の機会を得たことは、私にとって最高の喜びである。
 
  構造改革特区の第3次提案「非医療従事者による自動体外式除細動(AED)の使用の容認」を受けて、今回の検討委員会が開催されることになった。
  当初、検討委員会のメンバーになることを期待していたが、構造改革特区申請者として各関連団体の委員の前で充分な発言の機会が与えられたことが、かえって私の主張が今後の検討課題になりよかったと思っている。
 
  過去16年の心肺蘇生法の普及活動を紹介し、一般市民のAED使用に際して最も重要なことは、日本人に対する「命の教育」であることを主張した。
  私が心肺蘇生法の普及啓発を始めたのは、単に救命率を上げるためでなく、大義名分として「お互いの命を守る社会づくり」を目指して、心肺蘇生法を通して一般市民に「命の教育」を普及啓発を行い、その動機づけに「あなたは愛する人を救えますか」をアピールした。救命率の向上はその結果であり、目的ではなかった。
 
  米国留学中の1986年にバレーボールのフロー・ハイマン選手の試合中に倒れた時、米国の友人から「なぜ、日本人は心肺蘇生法を行わないのか」との批判を受けたが、当時の私にはそのシーンを見て心肺蘇生法を行う発想はなかった。
  米国では、学校教育において、目の前で人が倒れた場合に、すぐさま意識の確認を行い、意識がなければすぐさま救急車を呼ぶという「命の教育」がなされていないことに気づき、この「命の教育」を伝える為に、帰国後に心肺蘇生法の普及活動を開始したのである。
 
  心肺蘇生法の普及を始めた頃は、心臓突然死という言葉はなく、一般市民も救急車を呼べば助かると思っていた時代であった。「目の前で愛する人が倒れたなら、4分以内に心肺蘇生法を行い、救急車の到着を待たなければならない」ことを強調したが、当時、救急救命士制度はなく、救急隊は専門的な心肺蘇生法を行いながら救急病院に出来るだけ早く搬送することであり、救急病院でも儀式的に救命処置を行うだけであった。
  救急隊の救命講習会は、人工呼吸を中心としたプール開きの前の水難訓練が主な活動であり、心臓マッサージは特別な訓練を受けた人だけが出来る行為とみなされていた。当時、日赤では、2日間の救命講習会を受講した人に許可されている特別な行為と見なされていた。
 
  兵庫県の心肺蘇生法普及県民運動の特徴は、県教育委員会が中心となって学校教育の中で心肺蘇生法を通して「命の教育」を行ったことにある。
  岩手医科大学循環器センターが中心となって行った県民運動以外、他の都道府県は消防局や日本赤十字社などが中心となった普及活動であった。
  学校現場においても、兵庫県のごとく、教師が生徒に心肺蘇生法の実技講習を行うのではなく、派遣された心肺蘇生法普及指導員により教師と生徒が同じ場で指導を受けているのが現状である。これでは、生徒に対する最も効果的な「命の教育」の教育手段を放棄していることになる。今の社会の大きな問題となっている若年者層の殺人事件の問題解決にはならない。
 
  米国心臓協会の心肺蘇生法国際ガイドライン2000では、心臓突然死の原因は心室細動であり、5分以内にAEDによる除細動が最も有効な救命手段であることが明記されている。
  一般市民のAED導入に際し、かっての心肺蘇生法の心臓マッサージのように専門訓練を受けた人しか行ってはいけないといった規制を設けてはいけない。地道な活動ではあるが、学校教育にて生徒に「命の教育」を行うことが、将来の日本人“グッド・サマリタン”の育成につながると考えている。
  心肺蘇生法の講習で最も大切なことは、「大丈夫ですか」と声をかけ、意識がなけば大声で「誰か来て」、「救急車を呼んで」、「AEDを持って来て」と叫ぶことが、大声で危機を知らせる訓練になる。
 
  今回の一般市民のAED使用条件の中に、「医師等を探す努力をしても見つからない等、医師等による速やかな対応が得ることが困難である」とされているが、これでは現場で居合わせた医師が何もしない場合、不作為の行為と見なされることになる。
  非医療従事者にはどうのような人が含まれるかではなく、救急隊が到着するまでは、医師であっても一般市民であっても立場は同じである。医師会が推進している「メディカル・コントロール」は、通報を受けた救急隊が到着してからのことであり、たまたま医師がおればその時点からドクターカーになると考えている。
 
  兵庫県医師会では、平成13年(2001年)8月から医師会員が積極的にAEDを購入し、緊急時の備える活動を開始したのはこうしたことを想定したからである。来るべき一般市民に対するAED講習会を行う準備としてAED指導者講習会を開催して、現在17回392名の講習を行い、232台のAEDの購入実績がある。
  今後の講習会のあり方として、画一的な講習会でなく、多様な講習会が必要で、一般市民に対しては医師会が中心となって講習会を開催し、警察、警備員、施設管理者などは救急救命士、学校教育では養護教諭、保健体育教諭などは、それぞれ独自のプログラムで講習会を開催すればよいと考えている。
 
【講演の評価】
  かって、私の医学の師である和田壽郎先生から「講演の評価は講演後にすぐに分かる。講演会場から最後まで退室できない程、次々と話しかけらることである」と聞かされていた。
  検討会の終了後、渡延忠厚生労働省医政局指導課長を始め、先日の「視点・論点」を見て感激したとの委員、スライドを送ってほしいとの要請など、次々と名刺交換を行い、私が省議室を最後に退室したことがまさに今回の評価であると喜んでいる。




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