健康ニュース 平成12年11月10日送付 発行部数 605
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▼【TOPニュース】
・2000年アメリカ心臓病協会ガイドライン「一般市民のための心肺蘇生法のやり方」のご紹介
1992年のガイドラインと異なっている点は次の7点
1)口腔内異物を確認するより先に気道確保し人工呼吸を行う
2)人工呼吸の呼気吹き込み量はおよそ10ml/kgとする
3)心臓マッサージと人工呼吸回数の比率は15:2とする
4)気道異物の除去法としてハイムリッヒ法は用いない(医療従事者が行う手技とした)
5)心停止の確認に頸動脈の拍動を検索する必要はない(反応がなければ、心臓マッサージを行う)
6)心臓マッサージの回数は100/分とする(大人、子供とも同じ回数に統一)
7)電話で心肺蘇生を支持する場合は心臓マッサージだけでも良い(心臓マッサージでも効果がある)
今回の改正点は、一般市民にはできるだけ簡単なやり方を教え、医療従事者にはポケットマスク、バッグマスクによる確実な気道確保、人工呼吸法が求められている。
一般市民に対しては、目の前で人が倒れたら、すぐさま意識を確認し、意識がなければ救急車を呼ぶことの重要性が強調されている。
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▼【連載特集】
「あなたは愛する人を救えますか」その16-心肺蘇生法と交通安全教育-
兵庫県立健康センター所長
河村剛史
平成6年度から全国の高等学校での保健体育の授業や自動車学校で心肺蘇生法の講習が行われるようになり、次世代のすべての若者に普及する一応の講習体制は整っている。毎年、県新規採用職員と県立高校新任教諭の新人オリエンテーションにて心肺蘇生法を教えているが、平成元年の講習を始めた頃と比べて、最近は非常に教えやすくなった。確かに若い世代に1度は心肺蘇生法の講習を受けた人が増えてきている。特に、自動車学校での講習が心肺蘇生法の普及に大きく貢献している。
残念ながら「命の教育」が行われていない日本においては、心肺蘇生法の講習は単に救命技術の習得にとどまり、その技術を救命に生かす心の教育にはなっていない。最近、兵庫県の自動車学校で、教習中の訓練生が突然の心停止に陥ったにもかかわらず、同乗していた教官が何もせずに救急車を待っていた事例を聞き、「教官は何のために心肺蘇生法を教えているのか」と自動車学校での心肺蘇生法の講習の意義をもう1度問い直さなければいけない。
日本においては昭和45年に交通安全基本法が制定され、小学校から交通安全教育として横断歩道の渡り方、自転車の乗り方などの交通ルールが教えられている。一方,自動車学校では運動技術の習得と交通ルールの教育に加えて、交通事故に遭遇した場合のドライバーの責任として心肺蘇生法を始めとする応急処置の講習がなされている。こうした交通安全教育は、「お互いに交通ルールを守ることにより個人の安全(命)が守られている」という観点に立ったものである。見方を変えれば、本来、この交通ルールは「お互いの命を守る」ための社会ルールである。自動車学校での心肺蘇生法の講習の意義もそこにある。自動車は動く凶器と言われ、運転者の不注意と無謀な運転により自らの命を落とすだけでなく、交通事故に巻き込んだ他人の命も奪ってしまうことになる。自動車学校での心肺蘇生の講習において、「交通ルールは他人の命を守るためのものであり、自分の命も守られている」という「命の教育」がなされなければ、ただ免許を取るために仕方が無く受けることになる。
最近、14歳から17歳頃の思春期の若者がいとも簡単に人を殺す事件が多発しており、その背景には精神発育過程において他人とのかかわりの中で自己形成が出来ない未熟な人格(自己形成不全)が見え隠れする。「どんなことがあっても人は殺してはいけない」と誰もが自然に心に深く刻み込まれた社会道徳が崩壊しつつある。数年後には、彼らは運転免許を取る年代になる。どんな人でも自動車学校へ行けば自動車免許がとれる現行の制度では、いくら安全運転に心がけていても、アメリカ映画のカーアクションに見られるような相手の無謀運転により一般市民が2次的交通事故に巻き込まれる恐ろしい時代が訪れる気がする。
文部省も来年度から全国の全中学校の全クラスに一冊づつ「命の教育」読本を配布する予算を計上したとの報道があったが、今の親の世代にすでに「命の意識」「子供の躾」に対しの温度差があり、中学校教育というよりは小学校教育に社会全体が目を向ける時期に来ている。以前にも紹介したが、今後の社会教育環境を整えるには、小学校のPTA活動を中心に、同じ小学校区内の子供と親の2世代において
まず、同世代の人間関係を深め、PTA活動を通じて親子が共に成長する「親子の思い出の共有感」が必要である。これが「地域が子供を育てる」という社会教育の基盤になると信じている。すでに多様化した保護者の価値判断のなかで、「お互いの命を守る地域づくり」こそが唯一の共通理念になりうるものである。
なお、この記述の一部は、総務庁主催の第16回交通安全シンポジウム「今後の交通安全教育について」(平成9年11月27日、奈良市)にて講演した。
続く
バックナンバーにつきましてはセンターホームページ資料ボックス
http://www.hyogohsc.or.jp/entry/frame.htm
からご覧いただけます。
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▼【健康づくりワンポイントアドバイス】
・肥満防止の体質には遅筋の筋肉量アップが必要
筋肉には2つの種類があり、パワーとスピードを出す速筋(白筋)とゆっくりとした力を出す遅筋(赤筋)とがある。筋力アップといえば、マシーンを使った筋力トレーニングを考えるが、このトレーニングで増える筋肉は速筋で、速筋の中では酸素を取り込んだミオグロビンやエネルギーを産生するミトコンドリアが少なく、脂肪を分解しエネルギーにすることができない。遅筋は姿勢を正して歩く筋肉で、毛細血管が発達し、十分な血液が流れ、ミオグロビン、ミトコンドリアが豊富で、有酸素運動運動によって脂肪を燃やし、安静時においても脂肪を燃やし、太らない体質が完成する。脊椎ストレッチウォーキングは姿勢筋と下肢筋力を鍛え、遅筋の筋肉量を増やす理想的な有酸素運動である。
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▼【センターの話題】
・「脊椎ストレッチウォーキングin住吉川」開催
平成12年11月12日(日)14時00分から「脊椎ストレッチウォーキングin住吉川」を開催。県立健康センターが21世紀の健康長寿者の「自立自尊」を目指し、提唱している脊椎ストレッチウォーキングを指導する。このイベントは、阪神・淡路大震災の復興記念行事の一環として、東灘区、東灘区医師会との共催で開催。脊椎ストレッチウォーキング「毎日歩こう。背筋を伸ばして、今のあなたに、もう1000歩」は、生活習慣病予防のための兵庫県県民行動指標の1つに取り上げられている。
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▼【兵庫県内の話題】
・社説紹介(神戸新聞・2000年11月8日朝刊「健康スポーツ医・もっと上手に生かそう」からの転載)
体の状態や運動能力を見きわめてスポーツをやってこそ、健康維持につながるし、競技成績もあがる。むやみにがんばるだけでは、故障を起こしやすく、命を落とす危険すらある。 こうした事故を防ぐために、適切な運動メニューを提示したり健康管理に目を配ると同時に、競技指導者にアドバイスする役割を担うのが健康スポーツ医である。 日本医師会が9年前に認定制度をスタートさせ、内科、外科、トレーニング理論など、運動と健康について幅広い知識を持つ医師約1万4千人を認定しているが、1部の地域を除くと、残念なことに十分活動しているとはいえない。存在があまり知られていないことに加え、競技指導者の側にスポーツ医療に対する知識が欠けている面もある。校医や産業医のように、法的な設置義務がないことも活動を鈍らせている理由のひとつだろう。
こうした状況を受けて、兵庫県医師会が先月、「健康スポーツ・シンポジウム」を開いた。より安全に、より効果的に健康維持を図り、よりスポーツを楽しめる環境をつくるために、健康スポーツ医の役割と活動のあり方を考えるのが、その目的だ。 シンポでは、認定資格を持つ健康スポーツ医をネットワーク化し、地域と連携して、学校の部活動や地域スポーツクラブに積極的に加わっていくことなどを確認した。東京・港区のように一定地域での組織的活動はあるが、府県単位での取り組みは全国でも初めてとなる。ぜひ、全国のモデルになるような活動を期待したい。
兵庫県医師会がこうした取り組みに乗り出すのは、昨年、川西市の中学で起きたラグビー部員の熱中症死亡事故がきっかけになっている。気象条件や部員の体調をつかみ、ストップをかける医師がいれば、あるいは競技指導者にアドバイスができていれば、防げた事故だったという教訓だ。この事故の反省から、川西市教委は健康スポーツ医が部活動を視察することを決め、市内の認定医約30人がボランティア
の形で活動をしている。今後は制度化する方向で検討をしているという。
一般のスポーツ施設でも、同じ危険がある。医師会調査では、県内の施設で医療機関と提携している施設は3割弱にとどまっているという。地域スポーツクラブも含めて、「安全面」にもっと目をむけるべきだろう。県内には、約620人の認定医がいる。県医師会ではこれら認定医のリストを中につくり、地域や学校に連携を呼びかけていく。スポーツを安全に楽しむために、上手な協力の方法を探りたい。
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▼ 兵庫県外の話題
・WHOの西太平洋地域ポリオ根絶京都会議(平成12年10月9日)で「ポリオ根絶宣言」
昭和35年(1960年)に患者数5606名の空前の大流行があった小児麻痺(ポリオ)も生ワクチンの予防注射にて完全に予防が可能になり、1980年を最後に患者発生はなくなった。西太平洋地域では1997年のカンボジアでの発症が最後となり、平成12年10月9日のWHOの西太平洋地域ポリオ根絶京都会議で根絶宣言がなされた。ポリオの歴史は古く、紀元前2000年のエジプトのレムの石碑には、萎え衰えた右足のつま先を立て、杖にすがって立っている男の姿が描かれている。
・NPO法人「乳幼児の救急法を学ぶ会」の活動紹介(ご投稿いただきました)
代表の谷舗(たにしき)氏が1998年11月、昼間里親主催で市立秋田総合病院の救急医、円山啓司先生を講師に招き、乳幼児の救命講習会を開催。その後、乳幼児の事故予防や救急法を自主的に学び乳幼児の健全育成に寄与することを目的として「乳幼児の救急法を学ぶ会」を設立、今年の3月に京都府よりNPO法人の認証を受けて今日にいたる。現在の会員は約100人。11月11日(土)には第3回講演会を京都府医師会後援で開催する。保育関係者の講演(命の重さを忘れない)と併せて京都市消防局の協力で乳幼児の心肺蘇生法等の指導もある。
活動等についてのお問い合わせは
NPO法人 乳幼児の救急法を学ぶ会
〒616-8074 京都市右京区太秦安井二条裏町9-4
代表 谷舗 由紀子
e-mail:dkaeh900@kyoto.zaq.ne.jp tel・fax 075-811-5596
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このメールマガジンは、健康づくりをテーマに兵庫県立健康センターが編集し、不定期(月1回程度)に発行します。本号は個人551件、団体54件の合計605件の方々に送付させていただきました。誠にお手数ですが貴メールアドレスへのマガジンの送付停止につきましては、メール等にてご連絡いただきますようお願い申し上げます。
我々は多くの方々の健康づくりに少しでも寄与できればと考えております。インターネットにつきまして、未熟な我々がメールマガジンを発行できるのも、皆様方のご協力の賜物と感謝いたしております。今後ともご協力、ご支援のほどよろしくお願い申し上げます。
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