健康ニュース 2002年6月12日送付 発行部数 1018件
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<本号の目次>
▼ TOPニュース
▼ 連載特集
▼ 健康づくりワンポイントアドバイス
▼ 兵庫県立健康センターの話題
▼ 兵庫県内の話題
▼ 兵庫県外の話題
▼ お願い

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▼【TOPニュース】

・「食の安全管理」は「命の危機管理」と同じ

 BSE(いわゆる狂牛病)を契機に、雪印食品の偽装表示事件、ミスタードーナツの肉まんの無許可食品添加物、今度は協和香料化学の無許可香料など、次々に明るみに出てくる食品業界の不祥事は、企業倫理の欠如の背景に現在の日本人自体の倫理観の欠如を感じます。福沢諭吉先生は、「学問のすすめ」の中で、明治維新の新しい国家建設には、「一身独立、一国独立」こそは「国のいしずえ」と書かれていますが、日本人の一人一人の中に日本人としての誇りはなくなったのでしょうか。このままでは、世界から認められた勤勉で正直な日本人像は、最も信用されない国民になります。
 「お互いの命を守る社会づくり」は、他人を信用して成り立つ社会です。無関心社会こそが悪循環の温床になります。

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▼【連載特集】

「あなたは愛する人を救えますか」―健康スポーツ振興とスポーツ指導者の命の危機意識

 兵庫県立健康センター所長
  河村剛史

 1986年1月22日に松江で行われたバレーボールの試合日立対ダイエーにてフロー・ハイマン選手がベンチで倒れた時、試合は中断することなく進行し、担架が運びこまれ会場から連れ出す光景がテレビ中継で映し出された。彼女は1984年ロスアンゼルスオリンピックの米国の銀メダリストであり、そのニュースは米国でも大きく報道された。当時、米国のカルフォルニア大学サンディエゴ校医療センターに留学中であった私は、ニュースを見ていた友人から「なぜ、心肺蘇生法をしないのか」との日本人に対する批判を受け、「命の危機意識」の無さと日本の救急医療の遅れを痛感した。一旦、衛星放送で全世界にニュースが報道されれば、日本の救急の常識が世界に通用しない実例の一つである。
 1987年に帰国後、兵庫県立姫路循環器病センター救命救急センター長として兵庫県を中心に心肺蘇生法の普及を通して「命の尊さ」、「命の危機意識」の啓発を行ってきた。四方を海に囲まれ蒙古襲来以来、外国からの侵略の危機を経験したことのない島国国家の日本では、「水と空気と安全はただ」の意識が強く、この国民の「命の危機意識」の無さが心肺蘇生法の普及の大きな妨げになっている。
 2000年度からは、「健康日本21」や「地域総合型スポーツクラブ」がスタートし、兵庫県では「健康ひょうご21」県民運動や「スポーツひょうご21」が全県的に展開している。この中で、「スポーツひょうご21」は兵庫県下の837ヵ所の小学校区に地域密着型のスポーツクラブを作り、子供から高齢者までの生涯スポーツを行う環境づくりを目指している。これは法人県民税108億円を投じ、一ヶ所に5年間1500万円を補助する本格的なものである。2002年3月現在、約180ヶ所に誕生している。また、これに呼応するようにスポーツNPO(特定非営利活動法人)が各地に誕生している。これらのスポーツクラブの運営には、スポーツNPOのように一部の選任マネージャー(有給)を置き、運営基盤のしっかりしたクラブもあるが、大部分はスポーツ指導者を含めボランティア精神での参加形態が一般的である。
 こうした健康スポーツの振興の背景には、今後ますます増加することが予想される生活習慣病予防のための健康スポーツの振興政策があり、クラブ参加者には冠動脈危険因子を持った人が運動不足の解消のために参加することも想定され、スポーツクラブの医学面での安全対策が必要となってくる。こうした状況においても、スポーツ管理責任者の意識はあくまでボランティア精神で、医者にもボランティア参加を求めてくる。また、参加する医者自身も「医者が居れば安全」といった程度の好意的な考えで、心臓突然死が発生した時にどう対処できるかを想定しているものではない。この場合、医師の責任はボランティア参加であるから免責されるだろうか。命の危機管理は、契約に基いた責任体制の明確化があってこそ成立するもので、契約医師には責任を果たせる能力が要求されるのは当然である。
 現在、私は兵庫県医師会健康スポーツ医学委員会の委員長をしているが、兵庫県医師会員640名の日本医師会認定健康スポーツ医の今後のあるべき姿として、契約にもとづくクラブドクター制度の確立を目指しているのはこの理由からである。2006年には兵庫のじぎく国体が開催される。兵庫県下13会場での選手、観客の「命の危機管理体制」の確立を目指している。健康スポーツ医は、万が一、心臓突然死が会場内で発生した時、日本では医師法上、医師しか使用できない半自動除細動器(AED)を携帯し、会場内の「命の危機管理」の責任を果たす体制づくりの準備を行っている。こうした兵庫県の先取的な試みが全国的な「命の危機管理体制」の広がりを持つことを期待している。

 続く

バックナンバーにつきましてはセンターホームページ「電子ジャーナル配信」 
http://www.hyogohsc.or.jp/entry/frame.htm
からご覧いただけます。

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▼【健康づくりワンポイントアドバイス】

・心臓突然死の救命はいかに早く除細動を行えるかにかかっている

 心臓突然死は、45歳以上の男性で7割は家庭で家族の目の前で起こります。すぐ隣の人が4分以内に心肺蘇生法を行い、8分以内に電気的除細動を行うことにより半分の人が救命できます。心臓突然死の原因は、心臓の筋肉が痙攣状態になった心室細動です。除細動が1分遅れるごとに7%から10%の救命率が低下します。したがって、いかに早く除細動を行えるかにかかっています。現在、心電図上の除細動可能な心室細動のみを自動認識し、除細動ボタンを押すだけの半自動除細動器(AED)が開発され、日本でも救急救命士が医師の指示のもとで使用しています。心臓突然死の発症後、すくざま心肺蘇生法を行えば、虚血に最も弱い脳細胞を生かすだけでなく、心臓では除細動可能な心室細動を維持することができ、8分まで除細動時間を延長することができます。
 残念ながら、現場で救命士が医師の指示を得た後に除細動を行うまでの時間は16分以上かかっているのは現状です。米国心臓病協会(AHA)心肺蘇生法国際ガイドラインが発表されてから、大きな変化が救命救急体制で起こっています。一年以内には、救急救命士は医師の指示なしてAEDの除細ボタンを押すことができるようになります。そううなれば、心臓突然死の発症から8分以内に除細動が可能になり、救命率の向上が期待できます。15年来の心肺蘇生法普及活動である「目の前で、あなたの愛する人が倒れたなら、あなたは愛する人を救えますか」が本当に活かされる時代が到来いたします。

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▼【兵庫県立健康センターの話題】

・「MC-FANにおける全血流動性検査」(血流検査)を行えるようになりました。

 最近、話題の血流測定装置を設置いたしました。全血0.1ccを7ミクロンの間隙を通過する血流動態を顕微鏡下で観察する装置です。通常は60秒以内に血液は通過しますが、高脂血症などのいわゆる“ドロドロ血”は120秒以上、人によっては400秒以上(脳梗塞患者)の場合もあります。食事療法、運動療法の効果判定に使っております。
 兵庫県立健康センターでは、「長寿の道は、自立自尊」をモットーに、脊椎ストレッチウォーキングと脳梗塞予防に力を入れています。有料(3000円程度を予定)ですが、“死の四重奏”の疑いのある方、高脂血症の方は、自分の血液の流れ方を実際に観察し、今後の生活習慣の見直しを決意してください。医療相談とともにまもなく予約受付を開始します。

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▼【兵庫県内の話題】

・健康スポーツ関連施設連絡協議会のホームページを刷新

 アクセスのアドレスは、http://www.health-jp.net/ です。兵庫県医師会との共催で、脊椎ストレッチウォーキングin 明石、姫路、淡路、川西でイベントを開催いたします。詳しくはホームページをご覧ください。

・第3回兵庫県医師会健康スポーツ・シンポジウムの開催

 主催:兵庫県医師会、兵庫県立健康センター
 日時:平成14年8月22日(木)午後14:00〜17:00
 場所:コープこうべ生活文化センター大ホール
    (神戸市東灘区田中町5丁目3番20号 兵庫県立健康センター横)
 内容:
  講演1:「スポーツ時の心臓突然死予防と対策」
      兵庫県立健康センター 所長 河村剛史
  講演2:「糖尿病予備軍の病態と栄養管理」
      徳島大学医学部特殊栄養学講座教授 中屋 豊
 申し込み先:兵庫県立健康センター
       TEL:078-441-2234、FAX:078-441-2149
       E-mail:mail@hyogohsc.or.jp

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▼【兵庫県外の話題】

・厚生労働省通達「歯科医師による救急救命処置について」(平成14年4月23日)

 平成13年6月に市立札幌病院救急部において歯科医師がが専門外治療を行ったことで医師法違反が問われています。口腔外科治療では歯科麻酔専門化が全身管理を行っており、通常の歯科治療においても局所麻酔剤によるショック状態が起こる可能性もあります。こうした状況の中、平成14年3月25日の参議院予算委員会でも歯科医師研修問題が取り上げられ、4月23日には厚生労労働省から「歯科医師による救急救命処置及びそのための研修の取り扱い」も通達が出されました。
 その内容は、ショック患者に遭遇した場合、直ちに医師による対応を求める必要があるが、医師および救急隊が到着するまでは、救命救急処置を行うことができる。その中で気管内挿管、特定の薬剤投与などの高度な救急救命処置は、緊急避難として認められる場合がある。現時点では救急救命士法上、救急救命士に除細動の指示はできないことになっています。しかし、に平成13年12月19日の通達にて国際線機内における緊急時の客室乗務員による半自動除細動器(AED)の使用が認められたことがきっかけとなって、救急救命士の医師の指示なし除細動許可への検討が勧められております。
 米国心臓協会(AHA)2000年心肺蘇生法国際ガイドラインでは、医療従事者は一次救命処置としてバッグマスクによる人工呼吸法の習得を求めており、半自動除細動器(AED)の市民使用が勧められている世界情勢の中、日本でも医療従事者のAEDの使用の許可がおりるのは時間の問題となっている。

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▼【お願い】

 このメールマガジンは、健康づくりをテーマに兵庫県立健康センターが編集し、不定期(月1回程度)に発行します。本号は個人964件、団体54件の合計1018件の方々に送付させていただきました。誠にお手数ですが貴メールアドレスへのマガジンの送付停止につきましては、下記メールアドレスに連絡いただきますようお願い申し上げます。
 我々は多くの方々の健康づくりに少しでも寄与できればと考えております。インターネットにつきまして、未熟な我々がメールマガジンを発行できるのも、皆様方のご協力の賜物と感謝いたしております。今後ともご協力、ご支援のほどよろしくお願い申し上げます。

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 兵庫県立健康センター
  〒658-0081神戸市東灘区田中町5丁目3番20号
  TEL: (078)441-2234
  FAX: (078)441-2149
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  mail: mail@hyogohsc.or.jp

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