健康ニュース 2002年8月1日送付 発行部数 1045件
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<本号の目次>
▼ TOPニュース
▼ 連載特集
▼ 健康づくりワンポイントアドバイス
▼ 兵庫県立健康センターの話題
▼ 兵庫県内の話題
▼ 兵庫県外の話題
▼ お願い

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▼【TOPニュース】

・“セルフ・メディケーション”の概念の国民啓発の必要性
 中国のダイエット食品による健康被害は4人の死亡を含め、ついに536人(7月29日現在)を越えました。今回の事件は、インターネットを通じて「減肥」(減量)の広告により個人輸入した健康食品で、「医薬品として認められていない健康食品は危険性がある」との日本人の危険認識の欠如が見られます。
 厚生労働省は2001年4月に、国が安全性や有効性等を考慮して設定した規格基準を満たした食品を「保健機能食品」とする制度を創設しました。この中に、国が審査を行い許可した「特定保健用食品」と許可の必要のない「栄養機能食品」がありますが、一応、消費者が安心して選択できるものです。今回の中国のダイエット食品は、いわゆる健康食品に分類されるもので、安全性に対するなんらの保障はありません。実際には薬事法で医薬品以外に使用が認められていない物質が含まれていれました。ただし、多くの肝障害患者を出した中国製ダイエット食品のように、個人で少量を輸入し、個人で服用するような場合は、薬事法の規制を受けません。
 今後、市場に出回っている医薬品も含め、簡単な病気治療は薬局で薬剤師に相談しながら薬を選択し、自己責任にて健康管理を行う“セルフ・メディケーション”の時代の幕開けかもしれません。

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▼【連載特集】

「あなたは愛する人を救えますか」−マザー・テレサの人間愛とは
 兵庫県立健康センター所長
  河村剛史

 1997年9月6日に87歳で亡くなったマザー・テレサは、生涯にわたり人間愛を自らの行為で示した人であった.カルカッタの修道院が"死を待つ人の家"と陰口を言われた有名なエピソードが残っている.これは1979年ノーベル平和賞を受賞した時の講演で話された内容である。
 当時(1952年)、貧困に喘いでいたカルカッタでは、毎日のように行き倒れの人が路上に横たわっていた。マザーは修道女と外に出かけ今にも死にそうな人を修道院に収容し、身体を拭き、衣服を着替えさせて手厚い看護を行った.この行為を理解できない周辺の人々は、「なぜ死にそうな人ばかりを看るのか」、「もう少し元気な人なら助かるのに」、「だから修道院が死を待つ館と言われるのだ」などと、陰口をたたいた。この時、マザーは、「私は、何もしておりません.ただ、口元に水をさしあげながら、生きていて良かったねとささやいているだけです」と答えられた。誰も看取られず死んで行くこの世で最も不幸な人に、「生きていてよかった」と言えるマザーの言葉の中に、この世に生まれた命に無駄な命は一つもないと言い切った底知れぬ深い人間愛を感じる。
 数年前、学級崩壊で問題になっている大阪の中学校で講演の依頼を受けた。学校側に打開策がなく、ついにPTAが立ちあがったのである。PTA会長から生徒の2割は切れている学校であるが、一度私の講演を是非、生徒に聞かせてやりたいとの願いであった。講演終了後には父兄懇談会にも出席してほしいと頼まれた。講演会場である体育館に近づくと生徒指導の先生の怒声が聞えてきた。体育館には全校生徒約600名の他に200名程度の父兄が集まっていた。
 ガヤガヤと私語が収まらない生徒の前での講演は、すべての力を出し切る話術の挑戦である。私の小学校2年生の時に経験した祖父の死に際の思い出、中学校時代の話しには全く興味はなく、心肺蘇生法の普及のきっかけになったバレーボールのハイマン選手の話しも通じなかった。檀上から生徒を観察していると、時々私語を止めて私の話しに耳を傾ける生徒がいることがせめてもの救いである。しかし、2年生の列の真中にいた2人の男子生徒は、全く聞くそぶりも見せず、ふざけあっている姿が気になってし方がなく、どんな話しに彼らが聞き耳を立てるのかが私の挑戦になっていた。
 最後の手段として、だめだろうとは思いつつもマザーの「死を待つ館」の話を持ち出した。「マザーが死に行く人に耳元でどんな言葉をささやいていたと思いますか」と言って、マイクを持って生徒の列に分け入って質問をした。最初の生徒が「わかりません」と答えると、1年生、2年生、3年生と次々と質問をしても「わかりません」との返事のみであった。遠巻きを攻め本命の生徒にマイクを向けて、「君はどう思う」と質問すると、彼は「そんなもの知るか!」と言い放った。この時、怒る感情を押さえ、「わかりませんと言うより、これも立派な意見だ」というのが精一杯であった。
 マザーの「生きていてよかった」という言葉を伝えた。更に、中にはマザーの腕の中で目を開け、最後の言葉を残して死んで行った人もあり、その人はどんな言葉を残したかと再度、列に分け入り質問したが、答えはやはり「わかりません」であった。本命の彼にマイクを向けたところ、意外にも彼の口から一言、「ありがとう」という言葉がでた。あまりの意外さに思わず「君こそこの世の中を将来、支える人間だ」と褒め称えた。その死に顔は美しかったとマザーは言っていることも生徒に伝えた。私には言葉の奇跡と思えた。
 講演の終了後、学校で問題視している彼にこんな優しさがあることに気付かなかったとの校長先生の反省の言葉があり、帰りの廊下で彼とすれ違った時に「どうだった」と話しかけるとうつむいた彼の口から「はじめてだった」と感謝の言葉をもらった。

 続く

バックナンバーにつきましてはセンターホームページ「電子ジャーナル配信」
 http://www.hyogohsc.or.jp/entry/frame.htm
からご覧いただけます。

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▼【健康づくりワンポイントアドバイス】

・高コレステロール血症の診断基準は220mg/dl以上で、従来通りとなりました。
 平成14年7月18日、19日に神戸で開催された第34回日本動脈硬化学会にて新ガイドラインが発表されました。原案で提示された240mg/dl以上を高コレステロール血症とし、220〜240mg/dlを境界型とする新基準は採用されませんでした。前ガイドライン(1997年)の内容は、原則的に高コレステロール血症の管理対策に限られ、必ずしも他のリスクの重要性が十分反映されるような指針になっていないことや、薬物療法適応基準を設けたことから薬物治療が安易に行われるおそれがあるなどの問題点も指摘されており、今回の新ガイドラインでは、薬物療法の適応基準は設定せず、治療手段はまず、ライフスタイルの改善によることを優先させたのが特徴になっています。

【高脂血症の診断基準(血清脂質値:空腹時採血)】
高コレステロール血症   総コレステロール   ≧220 mg/dL
高LDLコレステロール血症  LDLコレステロール  ≧140 mg/dL
低HDLコレステロール血症  HDLコレステロール  <40 mg/dL
高トリグリセリド血症   トリグリセリド   ≧150 mg/dL

【ガイドラインの見方】
1)冠動脈危険因子として、加齢(男性≧45歳、女性≧55歳)、高血圧、糖尿病、喫煙、冠動脈疾患の家族歴、低HDL-C血症(<40 mg/dL)の6つの内、糖尿病以外の危険因子を一つ以上持っている人は、総コレステロール220mg/dl、LDLコレステロール140mg/dl、トリグリセリド150mg/dl以下が治療目標となります。年齢そのものが危険因子のひとつとなり、男性45歳以上、女性55歳以上ではこの基準となります。
2)糖尿病の人および3つ以上の危険因子を持っている人は、総コレステロール200mg/dl以下、LDLコレステロール120mg/dl以下が治療目標になります。

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▼【兵庫県立健康センターの話題】

・血液検査項目にCRP,遊離脂肪酸を加えました。
 最近、「炎症は,心筋梗塞、インスリン抵抗性や糖尿病を発生させる共通の要因であるかもしれない」との研究報告があいついで見られ、古くからの炎症マーカーであるC反応性蛋白質(CRP)の重要性が見直されています。特に、心臓突然死の原因の一つである急性冠症候群の発症の予測因子としても注目されています。また、遊離脂肪酸は、心筋エネルギーとして重要ですが、高濃度では脂肪毒となり、不整脈、時には心臓突然死の原因になっています。
 兵庫県立健康センターでは、通常の血液検査にこれらの項目を入れました。今後、肥満による糖尿病(2型糖尿病)も発症予測と、心臓突然死のハイリスク群の割り出しの目安として生活習慣指導に活かしたいと思っています。

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▼【兵庫県内の話題】

・第3回兵庫県医師会健康スポーツシンポジウムの開催
 日時:平成14年8月22日(木)午後14:00〜17:00
 場所:コープこうべ生活文化センター大ホール
    (神戸市東灘区田中町5丁目3番18号、兵庫県立健康センター東隣)
 内容:
 1)「スポーツ時の心臓突然死予防と対策」
   河村剛史(兵庫県立健康センター 所長)
 2)「糖尿病予備軍の病態と栄養管理」
   中屋 豊(徳島大学医学部特殊栄養学教授)
 申し込み先:兵庫県立健康センターへ、400名先着潤、参加費無料
   FAX: 078-441-2149
   E-mail: mail@hyogohsc.or.jp

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▼【兵庫県外の話題】

・医療制度改革関連法の国会成立

 平成14年7月26日についに成立しました。自己負担や保険料の引き上げに伴う新たな国民負担増は年間一兆5000億円になります。今まで毎年、一兆円増加していた国民医療費に対して、現在の医療保険財政の危機的状況がは5年程度、引き伸ばされたに過ぎないといわれています。世界に誇る医療保険制度を維持していくためには、国民の健康に対する自己管理意識の向上、診療報酬の「出来高払い」から「包括払い」への移行、高齢者医療制度の創設に見られる従来の「世代間扶養」から「世代内扶養」の移行の流れの圧力は強まるものと思われます。
 10年以上続いているバブル崩壊後の経済不況の中、毎年、一兆円のペースで急成長し続けている不況しらずの医療経済は、見方を変えれば今後の日本経済を押し上げる原動力になると領域です。

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▼【お願い】

 このメールマガジンは、健康づくりをテーマに兵庫県立健康センターが編集し、不定期(月1回程度)に発行します。本号は個人991件、団体54件の合計1045件の方々に送付させていただきました。誠にお手数ですが貴メールアドレスへのマガジンの送付停止につきましては、下記メールアドレスに連絡いただきますようお願い申し上げます。
 我々は多くの方々の健康づくりに少しでも寄与できればと考えております。インターネットにつきまして、未熟な我々がメールマガジンを発行できるのも、皆様方のご協力の賜物と感謝いたしております。今後ともご協力、ご支援のほどよろしくお願い申し上げます。

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 兵庫県立健康センター
  〒658-0081神戸市東灘区田中町5丁目3番20号
  TEL: (078)441-2234
  FAX: (078)441-2149
  URL: http://www.hyogohsc.or.jp/
  mail: mail@hyogohsc.or.jp

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