健康ニュース 2003年1月7日送付 発行部数 1107件
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<本号の目次>
▼ 新年の挨拶
▼ 連載特集
▼ 健康づくりワンポイントアドバイス
▼ 兵庫県立健康センターの話題
▼ 兵庫県内の話題
▼ 兵庫県外の話題
▼ お願い
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▼【新年の挨拶】
・健康心得「川下でごみを拾うより、川上でごみを捨てるな」という方がよい。
この言葉は、昭和57年(1982年)の兵庫県立健康センターの創立祝賀会に坂井時忠元知事が述べられた言葉である。人の命の一生を川の流れにたとえた、予防医学の本質です。最近の遺伝子医療、再生医療分野の目覚しい進歩は、ともすれば最先端医療として脚光を浴びていますが、元来、人間に備わっている自然治癒力のメカニズムの解明に過ぎず、お釈迦さんの手のひらで踊っていた孫悟空の“おごり”に思えます。
兵庫県立健康センターは、「健康は自らを知る、生きる喜び」、「長寿の道は、『自立自尊』」を健康理念に掲げ、社会啓発の第一線で奮闘しています。バブル社会は飽食、おごりの時代でしたが、デフレ社会はもう一度、原点に立ち戻り、自らの命の健康を喜びと感じる絶好の機会です。国民一人一人がしっかりと2本足で立つこと(自立自尊)こそが、国の礎(いしずえ)となり、個人や家族を真に豊かにするものと思います。
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▼【連載特集】
「あなたは愛する人を救えますか」ー根づかない危機意識教育
兵庫県立健康センター 所長
河村 剛史
平成14年11月6日にJR神戸線塚本―尼崎間で起こった救急活動中の救急隊員死傷事故は、危機管理マニュアルの不備よりもむしろ個人の危機意識の欠如が問題であると思っている。
新聞報道によると、市立中学2年の男子生徒が線路南側で同級生ら約10人と「探偵ごっこ」遊びをして、男子生徒ともう一人が犯人役になり、石垣の上にあるフェンスを乗り越えて線路内に入ったところ、午後7時12分頃に大阪発姫路行き新快速電車にはねられた。午後7時26分に通報を受けた大阪・淀川消防署の救急車が現場に到着した時には、すでに先に到着していた駅員と警察官がすぐそばにいた。現場は高架であり、3人の隊員ははしごをかけて暗い線路上に上がり、少年の救護と搬送を急いだ。後続の特急北近畿17号は現場を徐行して通過したが、午後7時45分に時速100キロのスピードで現場を通過した特急スーパーはくと11号に救急隊員の一人がはねられ、別の隊員が巻き込まれたという2次災害事故である。
この事故では、線路に入った生徒は問題外であるが、現場にいる誰もが当然、列車徐行の連絡が行っているものと思い込んでいたことが2次災害につながった。最終的には現場にいたJR職員の連絡の確認ミスが原因とされ、今後、現場職員の安全確認の報告があるまでは後続電車の運転を取りやめる危機管理マニュアルの見直しがなされようとしている。
この事故で気が付いたことは、連絡はしたが確認していなかったJR職員は、全速で迫ってくる特急を見て、パニックになり声も出なかったことである。最後の手段として「危ない! 特急が来る」と、もし大声で叫んでいたら、事故は防げたのではないだろうか。この事件でも、「危機を知らせる大声」の反射反応が無くなっている。
阪神淡路大震災の震源地に近い県立高校で、震災後に防災教育に力をいれ、昨年4月から「環境防災科」が新設されている高校の防災訓練日の講演に行った。この学校では、以前に貝原前知事、県防災監などの有名人による講演があり、また、教職員を含め全校生徒が神戸市の「市民救命士」の資格を取得しているとの前触れもあり、どんな学校か期待を持って出かけた。講堂では1,2年生の約1000名と教職員を対象に「お互いの命を守る社会づくり」をテーマに話をした。
講演の中で、現在の社会に「危機を知らせる大声」が無くなっていることについて事例を挙げながら話をした。講演前から密かに自称防災教育に力を入れている学校の教育成果を試したいと訓練人形を一体、全校生徒の前に置いてもらった。講演も半ばに入った頃、「君たちは全員、市民救命士の資格を取得したと聞いている。その実力を見せてもらう」、「今、目の前に友達が倒れた。助けるのは誰だ」と叫んだ。しかし、誰も前に出る様子もないので、「学校の名誉のために出てくる生徒はいないのか」と挑戦的な言葉を投げかけても反応はなく、仕方がないので「生徒会長、出てきて心肺蘇生をやりなさい」と言うと、生徒会長は前には出たが、「忘れました、出来ません」という始末である。
心肺蘇生法は、教師が生徒に教える残された最後の「命の教育」であるはずが、生徒も教師も一緒になって、神戸市派遣の心肺蘇生法インストラクターから心肺蘇生法の手技だけを学んだ結果である。教師が自らの言葉で生徒に「命の教育」を行う大切さに気づいていない。
さらに救急隊員死傷事故に触れ、最前列の生徒に「連絡したはずの特急が全速で迫ってきた。君がJR職員だったらどうする」との質問をしたところ、「電車を止めにいく」が答えであった。他の生徒はわからないとの返事であった。自称、防災危機教育に力を入れている県立高校でもこの程度のものである。日本の危機管理は、体制づくりであって生徒一人一人の危機教育はなされていない。危機教育を受けていない教師が見せかけの危機教育をするだけでは真の教育は出来ない。
続く
バックナンバーにつきましてはセンターホームページ「電子ジャーナル配信」
http://www.hyogohsc.or.jp/entry/frame.htm
からご覧いただけます。
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▼【健康づくりワンポイントアドバイス】
・65歳以上の高齢者の高血圧治療目標は収縮期(最高)血圧140mmHG以下である。
2002年12月17日に,米国において待望の大規模臨床試験−ALLHAT(TheAntihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart AttackTrial)−の結果が発表されました。ALLHATは42,418例の高血圧とそれ以外の冠危険因子をもつハイリスク患者を対象に、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、利尿薬の代表的な降圧薬の有用性を比較した,かつてないスケールの高血圧大規模臨床試験です。この中に65歳以上の被賢者が約57%を占めており、今後、高齢者においても血圧のコントロールの重要性が再認識されました。
この臨床試験から、虚血性心疾患、脳卒中の二次予防には、降圧薬の種類よりも収縮期血圧140mmHg以下にすることが最も有効な治療目標であることが述べられています。従来からの拡張期(最低)血圧の高低では虚血性心疾患、脳卒中の発生頻度には影響しないこことも判明しています。
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▼【兵庫県立健康センターの話題】
・「中高年者のスポーツ時の心臓突然死」の話題を独占した兵庫県立健康センターの啓発活動
昨年の11月22日の高円宮殿下の心臓突然死、23日の福知山、名古屋マラソン中の心臓突然死の事故が続きました。マスコミ(社会)は「なぜ、スポーツをするような健康な人に心臓突然死が起こるのか」の疑問を抱き、予てから「中高年のスポーツ時の心臓突然死」の警告を出していた河村剛史健康センター所長に質問が集中いたしました。全国紙、地方紙、医学雑誌、テレビ局の取材攻勢のすごさを経験いたしました。日本テレビの「ズームイン・スーパー」「ザ・ワイド」、NHKの「おはよう日本」、朝日テレビ「ワイドABCDE〜す」には15分程度の特集に出演しました。
今回の事故にて、中高年は健康スポーツが最適で、競技スポーツを行うなら、事前に運動負荷試験を行う必要性があること。自覚症状のない心臓突然死の可能性として、心室細動、急性冠症候群の存在をアピールできました。同時に兵庫県医師会が平成13年秋からの自動除細動器(AED)の普及も社会の注目する所となりました。
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▼【兵庫県内の話題】
・兵庫県における地域に根ざした心肺蘇生法の新たな取り組み
兵庫県北播磨地域では、県民行動プログラムに「心肺蘇生法を普及させ、『命の教育』を推進していこう」をキャッチコピーに、中学生から65歳までの全員が3回以上講習を受ける地域啓発活動が展開しております。地域推進リーダとしてボランティア「勇気」の開業医の富原 均氏の献身的な活動が評価され、地域を動かす原動力になっています。
詳細は、北播磨県民局ホームページ(http://web.pref.hyogo.jp/kitaharima/)の地域ビジョン推進プログラムをご覧ください。
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▼【兵庫県外の話題】
・2003年度から小児の結核対策が大きく変更され、学校健診は廃止されます。
2001年に新設された厚生科学審議会感染症結核部会(森亨部会長)の見直し提言に従い、2003年度から小学校1年時と中学1年時のツベクリン反応による定期健診とBCG再接種は廃止され、生後6ヶ月までの乳児に直接BCG接種を行うことになりました。この背景には、年間10数例の患者を発見するために120万人に定期健診を行うことは、コスト面と陽性例のX線被爆による危険性などの総合的な観点がら学校健診は廃止すべきであると提言しました。
・2003年4月より全国の高等学校新入生に対して心肺蘇生法の実習が必須になります。
兵庫県教育委員会は1994年度から高校生に心肺蘇生法講習を行う体制がスタートしていますが、学校によって取り組みの温度差が見られている。今回の文部科学省の通達により、心肺蘇生法実習が必須の教育課程に取り込まれることになりました。
・心臓突然死に対して一般市民による除細動(パブリック・アクセス除細動)を認める見解が出される。
日本循環器学会は平成14年12月10日に厚生労働省に対して、(1)看護師、救急隊員、消防士、警官などの使用推進(2)講習など市民使用を可能にする環境整備(3)乗り物、空港、学校などへの配備推進、を提言書を提出しました。それに対して厚生労働省は23日に、緊急避難的に一般の人が使っても医師法などに違反しないとの見解を打ち出しました。
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