健康ニュース 2003年5月1日送付 発行部数 1180件
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<本号の目次>
▼ TOPニュース
▼ 連載特集
▼ 健康づくりワンポイントアドバイス
▼ 兵庫県立健康センターの話題
▼ 兵庫県内の話題
▼ 兵庫県外の話題
▼ お願い
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▼【TOPニュース】
・新型肺炎は人畜共通感染;新型ウイルスの遺伝子変異様式
ウイルスの基本構造はRNAと被殻で、その増殖には動物の細胞への吸着、核内侵入、核内での自己RNAを増殖し、ウイルスRNAは細胞質内での自己RNA指示により生産された蛋白被殻に覆われて出芽・放出されます。厄介なことに、2種類の遺伝子の異なったウイルスが同時感染した場合、細胞核内での増殖過程で遺伝子の組み換えが起こり、侵入したウイルスとは異なった新型のウイルスが誕生します。専門的には「遺伝子再集合」と呼ばれ、毎年、インフルエンザの遺伝子タイプとワクチン対策が話題になっているのは、こうした遺伝子組み換えウイルスの誕生があるからです。
今回の中国広東省から発生したSARSウイルス(新型のコロナウイルス)感染は、この地方の野生動物を食する食習慣に根ざしており、感染した野生動物から食した人間に新型ウイルスの感染したものと考えられています。世界に広がっているSARSウイルスの遺伝子型は同一ではなく、わずかに異なったタイプのSARSウイルスが、人間の細胞内で「遺伝子再集合」を起こし、新しい遺伝子配列のウイルスが誕生しているように思われます。
世界のウイルス研究者が必死になっても、なぜ、インフルエンザ・ウイルスのように予防ワクチンが未だできないのかは、人間の細胞内で次々と変異しているウイルスのため特定できないためと考えられます。
これだけ先端医学が進歩したと言っても、SARSウイルス予防対策は、マスク、手洗い、うがい、隔離という衛生対策であることに感染に対する保健衛生の基本を再認識させられました。
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▼【連載特集】
「あなたは愛する人を救えますか」―イラク戦争の大義とは
兵庫県立健康センター 所長
河村 剛史
そもそも他国を攻撃する戦争に大義があるはずはない。国家主権のある国が隣国から侵略、攻撃を受けた時、自国を防衛する自衛権の行使のみに国家の大義があり、国民は国家のために戦わなければならない。
2001年9・11同時テロ以来、米国はテロの使用される大量破壊兵器の国外流出の恐れ、その可能性の高い"ならずもの国家"と称した独裁国家イラクに対して軍事行動に正当性を唱え、戦争布告を行った。世界の国家安全管理体制の流れは、世界規模のテロ集団と主権国家の安全対策との構図に変化し、国際テロ組織アル・カイーダを支援する国家を"ならずもの国家"と明言したのである。
"ならずもの国家"像にはいくつかの特徴が見出せる。第1は、独裁者による政治体制である。フセイン大統領の親族、血縁者を中心として特権階級が、大多数の国民を支配する構図である。第2は、長期の政権下における国民の思想教育がある。狭い世界の中で独裁者を個人崇拝する教育は、反政府組織の拡大を阻止する密告・監視の土壌ができる。さらにイラクのように国内の異民族紛、宗教派閥対立の紛争に対する世界の国家干渉を、イスラム教国とキリスト教国の宗教対立を前面に押し出しことにより国家存続を図っている。第3に、国民の生命・安全を守るべき政権がその存続のためには自国民の生命まで奪う弾圧政治を行っている。第4に、独裁国家の安定のために大量破壊兵器の存在を誇示しながら脅し外交を展開し、独裁政権の存続を図っている。第5に、国連安保理の度重なる大量破壊兵器の破棄勧告決議に対して米国の軍事圧力下にて国連査察をようやく小出しに受け入れる時間稼ぎをし、あくまでも疑惑を証明することを拒む姿勢である。
世界の世論は、イラクのクエート侵略に対して国連多国籍軍による湾岸戦争、9・11同時テロの首謀者のアル・カイーダを掃討するためにその組織を支援したアフガニスタンのタリバン政権を打倒したアフガン戦争は容認し、大きな戦争反対の動きはなかった。この流れにフセイン政権の打倒を目指したイラク戦争があるが、今回は世界の世論を2分する戦争反対の抗議デモが世界各地で起こった点が大きな違いがある。
平和を求める国連憲章には、戦争を容認する状況として第1に他国からの侵略による自衛権の行使、第2に国連安保理の決議によるとされている。日本の国会においても、今回の米国のイラク攻撃が、国連決議に基づいたものか、自国の先制攻撃の論理に基づいたものかの論議がなされており、日本の国連中心主義の立場から米国攻撃は前者に基づいたものと解釈して、米国支持を表明した。日本の国会の質疑を聞いていると、最終的には容認できても、もう少し国連査察を継続して平和裏にフセイン政権の打倒を図るべきと意見が根強かった。
緊迫した北朝鮮問題を抱えている日本にとって日米同盟が現時点での最も有効な自国防衛手段であることは間違いない。「空気と水と安全はただ」と思っていた島国国家の日本にとって、早急に国家の安全保障について国民参加の真剣な議論を展開しなければならない。連日のテレビ放送にて、攻撃の模様が次々と放送され、イラク側と米国側との情報戦争が見られた。各国において大規模な戦争反対の反米デモが見られたのも特徴であった。
日本においても、戦争反対のデモ参加者には政治団体のみならず、ごく一般の市民や高校生、大学生などの若者が参加しているのが目立っていた。こうした意識の高まりの中、日本においても国家の危機体制に対していかなる防衛体制を整えるかの国民的議論が展開される絶好のチャンスであったが、フセイン政権のあっけない崩壊後、急速にその論議が世論から消えていく気がする。連日のマスコミの報道は、中国の新型肺炎のニュースに取って代わられた。
続く
バックナンバーにつきましてはセンターホームページ「電子ジャーナル配信」
http://www.hyogohsc.or.jp/entry/frame.htm
からご覧いただけます。
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▼【健康づくりワンポイントアドバイス】
・女性高齢者は、内臓脂肪のない皮下脂肪型の軽度肥満が最も虚血性心疾患になりにくい。
虚血性心疾患の多いデンマークの高齢女性(平均71歳)1356名に対して、脂肪のつき方と虚血性心疾患の発症との関係を調べた所、内臓脂肪のない皮下脂肪蓄積型軽度肥満者(BMI26前後)が最も虚血性心疾患が少ないとの研究結果が、循環器専門誌の「Circulation」に発表されました。内臓脂肪細胞は、多様なサイトカインを分泌し動脈硬化および虚血性心疾患の大きな危険因子となっていますが、皮下脂肪細胞は逆に動脈硬化を防ぐ善玉サイトカイン(アディポネクチン)を分泌し、動脈硬化抑制因子になっています。女性特有の皮下脂肪型肥満(洋ナシ型肥満、下半身型肥満)であっても、定期的な有酸素運動を行い、内臓脂肪だけでも燃やしておくことが大切です。逆に、皮下脂肪のない痩せた女性の場合では、むしろ皮下脂肪としての余分なカロリーの貯蔵場所がないので、3食を規則正しく摂取し、余分なカロリーを有酸素運動で燃やす運動習慣がより必要となります。いずれにしても、痩せた人も太った人も関係なく、内臓脂肪を燃やす定期的な有酸素運動は必要です。
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▼【兵庫県立健康センターの話題】
・「脊椎ストレッチウォーキングin川西」が開催されます。
脊椎ストレッチウォーキングは、健康づくり県民行動指標「毎日歩こう 背筋を伸ばして今のあなたにもう1000歩」の実践歩行スタイルです。日医認定健康スポーツ医が健康相談をいたします。
日時:5月11日(日)午前10:30〜13:00
会場:川西市立川西小学校体育館、猪名川河川敷遊歩道(4Km)
主催:兵庫県医師会、川西市医師会
共催:健康スポーツ関連施設連絡協議会、オキシー阪急、兵庫県立健康センター
定員:300人、参加費:500円
・第18回日本心臓ペーシング学会・電気生理学術大会市民公開講座「知っておきたい不整脈の話」の開催のお知らせ。この中で、河村所長は、「病院外心停止と自動除細動器(AED)」の講演を行います。
日時:5月25日(日)午後13:00〜16:30
会場:国立京都国際会館
定員:500人、参加費:無料
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▼【兵庫県内の話題】
・兵庫県立「ひと未来館」が4月26日から開館しました。
阪神・淡路大震災復興事業の一環として、昨年の4月27日に開館した1期施設「人と防災未来センター」についで2期施設として完成しました。整備費61億円をかけ、地上7階、地下1階の建物である。1階から3階には命の大切さや共生をテーマに映像や大型模型を使った展示スペースがあり、森や花の香りと映像、照明で癒しや安らぎを体験するコーナーや、楽器演奏などで子どもが遊べる空間もあります。
このプロジェクトは、阪神・淡路大震災復興事業(フェニックス計画)の委員であった東京女子医科大学桜井靖久教授の提案で、その原型は桜井教授が長年の夢であった「健康デズニーランド構想」で、遊びながら健康について学ぶ「ヘルスケアパーク構想」としてスタートしました。しかし、途中経過において、基本テーマが「健康づくり」から「命の尊さ」に変わり、「ヒューマンケア構想」に変更された経緯があります。
・兵庫県、神戸市において新型肺炎に対してSARS行動計画が策定されました。
中国、香港のSARSウイルス肺炎に対しての初動態勢の遅れが、流行の拡大の元凶です。ベトナムでは初動態勢の徹底から新たな患者の発生を抑えることができ、初期の防疫、保健衛生体制の充実が病気の拡大を防ぐ決め手であることが証明されました。SARSウイルスの発病潜伏期は10日前後ですので、2週間以上の新たな発生がなければ、病気を制圧したことになります。
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▼【兵庫県外の話題】
・半自動除細動(AED)関連ニュース
全日本航空(ANA)は、国際線、国内線ともに半自動除細動器(AED)が装備されました。日本航空(JAL)は昨年の10月から国際線に装備されていましたが、今後、国内線にも装備される予定です。
日本陸上連盟の医事委員会も、3月の委員会でマラソンなどのスポーツイベントでは主催者側がAEDを装備するように提言しています。今後、AEDを携帯した医師が、スポーツイベントの救急担当を行う体制が一般的になると思います。
・5月31日は、WHO「世界禁煙デー」:「たばこ規制枠組み条約」の成立後の日本の対応は如何に。
世界保健機関(WHO)の主導で進められている「たばこ規制枠組み条約」は、たばこの生産から販売、広告に至るまで幅広く規制しようというもので、今月のWHO総会で採択される見通しだ。公衆衛生分野では初の国際条約となります。
世界でただ一カ国、たばこを減らすことに反対していた日本が国際世論に押し切られ、3月1日にたばこ規制枠組み条約の国家間合意がまとまりました。警告表示の強化や自動販売機の規制などが盛り込まれ、日本も対応を迫られます。たばこによる国内の健康被害は、年間の死者が10万人、余分な医療費が1兆3千億円と推計されています。
日本においても、5月から健康増進法が施行されました。これに合わせて、施設禁煙の動き、駅を含めた交通機関の全面禁煙の動きが高まっています。日本医師会を始め、日本呼吸器学会、日本循環器学会などが、医師が率先して禁煙することを宣言しました。学校などの教育現場での施設禁煙の動きも出ています。
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このメールマガジンは、健康づくりをテーマに兵庫県立健康センターが編集し、不定期(月1回程度)に発行します。本号は個人1126件、団体54件の合計1180件の方々に送付させていただきました。誠にお手数ですが貴メールアドレスへのマガジンの送付停止につきましては、下記メールアドレスに連絡いただきますようお願い申し上げます。
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兵庫県立健康センター
〒658-0081神戸市東灘区田中町5丁目3番20号
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