健康ニュース 2003年7月3日送付 発行部数 1222件
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<本号の目次>
▼ TOPニュース
▼ 連載特集
▼ 健康づくりワンポイントアドバイス
▼ 兵庫県立健康センターの話題
▼ 兵庫県内の話題
▼ 兵庫県外の話題
▼ お願い
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▼【TOPニュース】
・生かされない付属池田小学校の「謝罪文」
付属池田小学校児童殺傷事件から丸2年を迎えた8日、死亡した児童8人の遺族と文部科学省、大教大、付属池田小の4者が、国側の謝罪や総額約四億円の賠償金支払い、再発防止策などを盛り込んだ合意書に調印した。国の賠償責任を問う裁判が行われるのが通常ですが、遺族の思いを配慮しものと思います。平成13年8月23日の保護者会で、学校側から「反省と謝罪」の文章が提出されており、担任教師の緊急時の行動が被害の拡大を招いたとの反省が述べられています。しかし、「学校内での安全・危機管理」を考えていく上では、今回は裁判を行い、法廷の場で学校側の反省点を述べ、全国の教師の危機意識を高める教訓にすべきではなかったかと思います。
平成15年6月19日付けの新聞に、今年の5月に堺市立三国ヶ丘小学校で不審な男が侵入し、一時連れ回された小学4年女児が手を振り切って、教室のドアを開け、そこにいた女性教師に「変な人がいる」と訴えたところ、教師は「ノックして入ってきなさい」と的外れの対応したとの新聞報道を読み、これでいいのかと現場教師の危機管理の低さにあきれました。
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▼【連載特集】
「あなたは愛する人を救えますか」―これからの心肺蘇生法は、"AED First"
兵庫県立健康センター 所長
河村剛史
目の前で人が倒れたなら、すぐさま、「大丈夫ですか!」と声をかけ、頬や肩を叩きながら意識の確認を行う。意識(反応)がなければ、すぐさま、「救急車を呼んで!」、「AEDを持って来て!」と叫び、AEDが来るまで、ひたすら心臓マッサージだけを行う。AEDが到着すれば、AEDの音声指示に従って、パッチ電極を右前胸部と左側胸部に貼り付けさえすれば、AEDが心室細動の有無を自動解析し、心室細動であれば自動的に電気充電が行われる。後は、除細動ボタンを押すだけである。これが、救急隊が到着する前に行う、これからのAEDを使った心肺蘇生法"AED First"である。
米国シカゴのオヘア空港には、各トイレの前に41台のAEDが設置されている。1999年6月1日から2001年5月31日までの2年間に21例の心停止患者が発生し、18例(85%)が心室細動(VF)であった。この内、16例に対して グッド・サマリタン ( 旅行者、空港職員ら )がAEDによる除細動を行い、2例がAED訓練者が行った。11例(61%)が蘇生(8例が病院到着前に意識回復)、6例が非訓練者であった。1年生存率は10例(56%)であった。オヘア空港では、AED設置にあたり空港職員にAED取り扱い講習を行っていたが、実際に現場でAEDを使用したのは、ほとんどがAED講習会を受けていない素人の旅行者であり、空港職員であった。見方を変えれば、AEDの取り扱いがはじめての人でも緊急時に使用できる機器であると言える。AED取り扱い規則上では違法であるが、米国では善意を持って行ったことに結果の如何にかかわれず罪に問わないというグッド・サマリタン法があり、一般市民によるAED除細動の普及の大きな力になっている。
毎年、兵庫県立健康センターに実習に来る医学部学生に心肺蘇生法の講習を行っているが、見たことも触ったこともない学生にいきなりAEDによる除細動を指示した所、音声指示に従って容易に除細動を行うことができた。むしろ、パニック状態に陥った時に、AEDからの適切な音声指示は救命者を落ち着かせる効果がある。米国では、小学6年生にAED取り扱い訓練を行い、間違いなくAED操作ができたとの報告もある。
兵庫県医師会では2001年度から医師会員を対象としたAED指導者講習会を開催し、AEDの積極的な購入を勧めている。現在、150台のAEDが診療現場に設置されている。兵庫県下で行われるスポーツイベントに出務する医師はAEDを携帯することにしている。医師が率先してAEDを購入する動きは、全国の医師会にも波及している。
高円宮殿下の心臓突然死、福知山マラソン、名古屋マラソンの心臓突然死事故があった翌日の2002年11月24日に開催された尼崎市シティーマラソンでは、65歳の男性がゴール直後に倒れ、心停止状態であったが、救命することができた。安全管理体制を担当した尼崎市医師会医師14名の内、10名が10台のAEDを携帯して等間隔にマラソンコースに立ち、緊急に備えていた。ゴール直後の心停止に対してAEDを装着する前に、幸いにも前胸部強打法により正常の心拍に戻り、事なきを得た。病院入院後の冠動脈造影では冠動脈狭窄、心筋梗塞の所見はなく、心臓突然死のもうひとつの原因である心室性不整脈からの心室粗動(心室細動の一歩手前)が起こっていたものと考えられた。こうした中、今年の3月には、日本陸練の医事委員会は、スポーツイベント主催者はAEDを常備すべきであるとの提言をし、マラソンなどのスポーツイベントにおいて、主催者側がAEDを常備することが当たり前になりつつある。
AEDの普及は、目の前で倒れた意識のない人に対して、まず、心室細動の可能性を念頭におく緊急時の意識改革であり、心室細動だけはAEDを使用すれば一般市民でも救命できる唯一の心臓病であることの啓発活動である。
続く
バックナンバーにつきましてはセンターホームページ「電子ジャーナル配信」
http://www.hyogohsc.or.jp/entry/frame.htm
からご覧いただけます。
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▼【健康づくりワンポイントアドバイス】
・モーニング・サージ(早朝昇圧)は、脳卒中の発症予測因子です。
米国と比較して日本では、心筋梗塞の発症率は5分の1ですが、脳卒中の発症率は5倍と言われています。心筋梗塞と脳卒中とを合わせた脳心血管障害の発症率は、両国とも同じです。日本における65歳以上の寝たきり患者の原因の38%は脳卒中患者と言われ、生活習慣病の中でも脳卒中予防対策が最も重要です。
最近、米国の循環器専門誌「Circulation」に掲載された自治医科大学循環器内科苅尾七臣氏の「高齢者高血圧患者におけるモーニング・サージ(早朝昇圧、MS)は脳血管障害の予測因子」の論文が注目されています。519例の高齢者高血圧患者(平均年齢72歳)を対象に、起床後2時間の収縮期血圧と夜間最低収縮期圧との血圧差が55mmHg以上のMS群(53例)の脳卒中発症率は、41ヶ月の追跡調査で非MS群(466例)の2.7倍に見られました。驚いたことに、研究スタート時に前例に脳MRI検査を行ったところ、MS群の70%、非MS群の48%にすでに無症候性脳梗塞が見られていました。24時間自由行動下血圧測定を行ったところ、夜間最低収縮期血圧は、MS群103mmHG、非MS群114mmHgでしたが、早朝時血圧は、MS群172mmHg、非MS群143mmHgで、MG群が69mmHgの急激な早朝昇圧が見られました。
起床による交感神経活動の亢進による急激な血圧の増加をきたす早朝高血圧が、脳心血管障害の引き金になっており、脳卒中のみならず心筋梗塞、心臓突然死の発症原因にもなっています。昨年の福知山、名古屋マラソン時の心臓突然死は、運動によって血圧が増加する運動時高血圧が引き金になったと考えています。
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▼【兵庫県立健康センターの話題】
・平成15年8月21日に「第4回兵庫県医師会健康スポーツ・シンポジウム」を開催いたします。
平成15年8月21日(木)午後14:00〜17:00にコープこうべ生活文化センター大ホールで開催いたします。健康スポーツ医との新たなパートナーシップを求めて、スポーツ関連施設およびコ・メディカルスタッフに広く呼びかけ、 健康スポーツに関する知識と技術の習得向上を図るとともに、新たな活動の場を開拓することを目的としております。申込、お問い合わせは、兵庫県医師会事務局又は兵庫県立健康センターまで。
内容:
講演1:「スポーツ時の安全管理:中高年者の運動時高血圧について」
兵庫県立健康センター 所長 河村剛史
講演2:「長寿健康法〜いまを生き抜き、年は後で取ろう」
(社)臨床心臓病学教育研究会 会長 高階經和
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▼【兵庫県内の話題】
・本邦初公開:学校プールにおけるバックボードを使用した水難訓練
6月23日に姫路市安室東小学校プールにおいてバックボードによる水難訓練を行いました。プールでの水難事故では、飛び込みによる頚椎損傷が見られ、欧米では、プールからの傷病者に引き上げの際には、バックボードにて頚椎を含め全脊椎を固定することにより2次的脊椎損傷を予防するのが当たり前になっています。本校では毎年、心肺蘇生法講習とプールでの水難訓練を行っていますが、今年はPTAがバックボードの購入を決め、今回が学校での本邦初公開となりました。交代でプール中央に沈んでくれた小学6年生の児童を父兄4人がグループになり、バックボードを使った引き上げ訓練を行いました。最後に、82Kgの成人男性を女性4人がプールサイドに軽々と引き上げたときには、バックボードの有用性を示したものと言えます。
当日、NHK放送の取材もあり、プール事故におけるバックボードの必要性を訴える特集として、7月4日(金)朝7:30-8:00の間に放送予定しています(近畿地区)。8月には兵庫県立健康センターにおいても県下のプールを持っている施設トレーナを対象としたバックボード使用訓練を予定しており、日本においてもプールサイドにバックボードを常備する啓発運動の第一歩を踏み出しました。
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▼【兵庫県外の話題】
・日本医師会は医師会員に対してACLS(2次救命処置)講習を行うことを表明しました。
6月9日に開催された日本医師会の都道府県医師会救急災害医療担当理事連絡協議会で、羽生田俊常任理事は、医師を対象とした生涯教育の一環としてACLSの講習会開催を計画中と述べました。標準的カリキュラムについては救急災害医療対策委員会で検討中とのことでした。
日医が会員を中心とした医師に対する救急処置技術の向上に乗り出すのは初めてで、米国心臓協会(AHA)心肺蘇生法国際ガイドライン2000の発表以来、日本においても心臓突然死に対する半自動除細動器(AED)の一般使用の機運が高まっている中、医師の救急蘇生処置に関するレベルアップにつなげたいとの意向を示しました。
兵庫県医師会では、平成14年度から医師会員を対象としたAEDを使用したBLS(1次救命処置)講習会を開催し、来るべき医師会主催による「一般市民によるAED講習会」における医師指導者養成を行っています。平成14年度は225人の医師が参加し、本年度は300人予定です。
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▼【お願い】
このメールマガジンは、健康づくりをテーマに兵庫県立健康センターが編集し、不定期(月1回程度)に発行します。本号は個人1168件、団体54件の合計1222件の方々に送付させていただきました。誠にお手数ですが貴メールアドレスへのマガジンの送付停止につきましては、下記メールアドレスに連絡いただきますようお願い申し上げます。
我々は多くの方々の健康づくりに少しでも寄与できればと考えております。インターネットにつきまして、未熟な我々がメールマガジンを発行できるのも、皆様方のご協力の賜物と感謝いたしております。今後ともご協力、ご支援のほどよろしくお願い申し上げます。
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兵庫県立健康センター
〒658-0081神戸市東灘区田中町5丁目3番20号
TEL: (078)441-2234
FAX: (078)441-2149
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