健康ニュース 2003年11月7日送付 発行部数 1309件
**********************************************************************

<本号の目次>
▼ TOPニュース
▼ 連載特集
▼ 健康づくりワンポイントアドバイス
▼ 兵庫県立健康センターの話題
▼ 兵庫県内の話題
▼ 兵庫県外の話題
▼ お願い

**********************************************************************

▼【TOPニュース】

・平成15年11月10日放送のNHK教育テレビ「視点・論点」(10時50分放送)に所長が出演します
 平成14年1月23日に次いで2回目の出演です。今回のテーマは、「命の教育」です。心肺蘇生法は、目の前に人が倒れたなら、「大丈夫ですか!」と声をかけ、意識がなければ、すぐさま「救急車(119番)を呼んで!」と大声で叫ぶことが「命の教育」です。来年春には一般市民がAEDを使用できるようになります。意識消失(心停止)から5分以内に除細動を行うことにより、50%の人が救命できます。意識はなければ、「救急車、AED」と叫ぶ「命の教育」が今こそ求められています。
 是非ご覧ください。

---------------------------------------------------------------------

▼【連載特集】

「あなたは愛する人を救えますか」−AEDによる早期除細動は、脳蘇生が期待できる。
兵庫県立健康センター所長
河村剛史

 米国心臓協会心肺蘇生法国際ガイドライン2000では、心臓突然死の原因は心室細動であるとし、すぐさま、AEDによる除細動が唯一の救命法とした。心室細動は、心臓からの血液の拍出がなくなる、いわゆる「心停止」の状態に陥る。心停止後、1分除細動が遅れるごとに10%、救命率が減少すると明言している。現時点での欧米における救命率は25%前後であることから、一般市民によるAED使用(パブリック・アクセス除細動、PADという)により50%の救命率向上を目標に掲げている。ちなみに、日本の現在の救命率は3%(1999年全国調査)である。
 血液循環がなくなり、酸素欠乏(虚血という)に陥った場合、人間の臓器の中で脳は、4分で脳細胞が回復できない致命的な組織障害(不可逆的変化という)を起こす。一方、心臓は、心電図上4分で波形が粗い心室細動から細かい心室細動に変化し、さらに時間が経過すると一見、心臓の電気的興奮がなくなった(心静止という)状態になるが、組織的障害は30分以上経過して起こる。したがって、心停止から4分で脳は致命的障害が発生するが、心臓は30分以内であれば組織障害なく心拍を再開することができる。
 AEDの心室細動の自動認識プログラム(検出閾値)は、心室細動の波高(波形の振幅)が0.08mV以上の場合に除細動可能な心室細動と判定し、自動的に除細動のための電気充電が行われる。先程、心室細動の波形が時間経過に伴って、振幅の大きい粗い細動波形から細かい細動波形に変化することを述べたが、AEDが認識する心室細動の波形は、心室細動発症から4分以内に見られる波形である。すなわち、4分以内の脳虚血時間であれば、除細動により心拍が再開し、血液循環が再開されれば、致命的な脳障害が防げることを意味する。
 心停止後すぐさま心肺蘇生法を行って、脳と心臓にわずかでも血液を循環させておれば、脳細胞の障害を遅らすことができ、かつ、心臓においては心室細動が粗い波形のままで維持され、AEDの自動認識プログラムが作動して除細動が可能となる。別の見方をすれば、AEDが除細動を認識した場合には、心停止後の経過時間にかかわらず、除細動が可能であるばかりでなく、脳循環は維持されている証でもあり、脳蘇生も期待できるのである。
 以上のことが、国際ガイドライン2000において、脳障害を起こさずに救命するためには、心室細動に対して心停止後5分以内にAEDによる早期除細動を行うことを推奨している理論的根拠でもある。もし、AEDが身近にない場合には、AEDが到着するまで心臓マッサージのみを行っておれば、AEDによる除細動が8分以内であれば救命率は50%を期待できる。
 日本においても、2003年4月から救急救命士の医師の指示なし除細動ができるようになった。大阪府域内救急隊の除細動施行の実態調査では、救急コールから現場到着まで平均5分、心肺蘇生法開始が平均7分、除細動施行が平均15分となっている。したがって、新体制において時間的には、救急コールから7分前後の医師の指示なし除細動が可能となった。
 しかしながら、一般市民が心停止の発生から119番への通報時間のことを考慮にいれると除細動までの実時間はさらに延長する。除細動までの時間の短縮には、一般市民に対して「意識がなければ、すぐさま救急車を呼んで、AEDを持ってきて」が常識化することが必要である。
 今後のAEDの普及には、公共施設などの法的な設置義務だけでは不充分で、一般市民においてAEDが消火器と同じ程度の認識を持つような啓発運動が必要である。この啓発には、16年前に心肺蘇生法の実技講習会を通して「心肺蘇生法」の名前を広めたように、AEDを用いた心肺蘇生法の実技講習会を開催して、まず、「AED」の名前を広めることが第一歩であると考えている。

 続く

---------------------------------------------------------------------

▼【健康づくりワンポイントアドバイス】

・骨格筋細胞内へのブドウ糖の取り込みの新たな機序が見つかりました。
 筋肉内へのブドウ糖の取り込みには、細胞膜のインスリン受容体にインスリンが結合し、細胞質内にあるグルート4(Glut4)と言われる取り込み口が細胞膜に移動してブドウ糖を細胞内に取り込む機序が知られています。
 最近の研究では、運動自体がグルート4を細胞膜に移動させる機序があることが解明されました。運動により、筋収縮エネルギーであるATPが消耗するにつれ、AMPカイネースという酵素が活性化され、ブドウ糖の細胞内の取り込みを促進します。さらに、筋肉内に発生したブラディキニンにも同様の作用があり、インスリン欠乏状態でも運動することにより血液中のブドウ糖を低下させることができます。
 毎日、定期的に有酸素運動を行うことは、単に内臓脂肪を燃やすだけでなく、血中のブドウ糖そのものをインスリンの助けなしに燃焼させることなります。糖尿病の運動療法は、インスリン分泌が少ない人でも有効であるといえます。

--------------------------------------------------------------------

▼【兵庫県立健康センターの話題】
▼【兵庫県内の話題】

・第25回日本健康増進学会が兵庫県立健康センターで開催されました。
 日本健康増進施設連絡協議会の主催にて平成15年10月30日、31日に開催されました。学会長は河村剛史兵庫県立健康センター所長です。
 健康増進施設は、昭和53年の第一次国民健康づくり対策として、国民に生涯を通じての健康づくりを指導するために都道府県ごとに設立されたものです。最近の財政難に加え、民間のフィットネスクラブが多数できたことから、多くの自治体が健康増進施設を役目を終えたとの理由で閉鎖する流れになっております。
 河村剛史学会長は、こうした自治体の動きに異論を唱えました。
 平成12年の第三次国民健康づくり対策「健康日本21」がスタートしていますが、国民に生活習慣修正の行動指標を提示し、「健康づくりは国民の責務である」と健康増進法で明記されても、どの様に指導するかの具体的指導法を指導する上位の技術的中核施設の必要性が抜けています。
 生活習慣病の危険因子を持っている人の生活習慣の見直し指導には、安全管理面から医師、トレーナ、実践者が危険度を共有した指導プログラムの作成が必要です。
 生活習慣病予防は、健康から病気を見るのではなく、病気から健康をみる逆転の発想が求められ、医療施設でもある健康増進施設の特徴を生かし、今後、都道府県に生活習慣病指導センターが発展的設立されることを今後の方針として提示しました。

---------------------------------------------------------------------

▼【兵庫県外の話題】

・厚生労働省の「非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)のあり方検討会」のメンバーが決まりました。
 島崎修次杏林大学医学部救急医学教授を委員長とし、医学関係、関係団体、法学関係、マスコミ関係、オブザーバーとして行政関係者の構成メンバーにて、平成15年度中に結論を出す予定になっています。
 委員の中に、本年9月に日本心臓病学会公開講座「突然死は救える」において、コーディネータであった南砂読売新聞東京本社編集局解説部次長が入っており、市民の立場の代弁に期待しています。
 検討事項は、救急蘇生から見た非医療従事者によるAEDの使用の条件のあり方、国民の理解を促進し、普及啓発を図る方策などである。会議は原則として公開されます。
 私見としては、以前の心肺蘇生法の講習会と同様に、AED取り扱いを含めた心肺蘇生法講習会にてAED使用を認めるのが現実的であると思う。AEDは心室細動患者のみに反応する機器で、他人に害を及ぼすことがない安全な機器であるからです。

---------------------------------------------------------------------

▼【お願い】

 このメールマガジンは、健康づくりをテーマに兵庫県立健康センターが編集し、不定期(月1回程度)に発行します。本号は個人1254件、団体55件の合計1309件の方々に送付させていただきました。誠にお手数ですが貴メールアドレスへのマガジンの送付停止につきましては、下記メールアドレスに連絡いただきますようお願い申し上げます。
 我々は多くの方々の健康づくりに少しでも寄与できればと考えております。インターネットにつきまして、未熟な我々がメールマガジンを発行できるのも、皆様方のご協力の賜物と感謝いたしております。今後ともご協力、ご支援のほどよろしくお願い申し上げます。

**********************************************************************

 兵庫県立健康センター
  〒658-0081神戸市東灘区田中町5丁目3番20号
  TEL: (078)441-2234
  FAX: (078)441-2149
  URL: http://www.hyogohsc.or.jp/
  mail: mail@hyogohsc.or.jp
**********************************************************************


Copyright (C) 2004 Hyogo Vitual Health Science Center